いつからかはっきりとは覚えていませんが、 村上龍はもしかしたら小説家として以上に、 エコノミストとしての方が注目をされているかもしれません。 こんなテレビ番組の司会もやっていますし。
個人的には彼にとって経済って側面が 作品にリアリティを与えるために不可欠で、 そうして経済に詳しくなっていって、 いつからか小説の中で描いた将来の経済状況が、 現実とかなりの確率で当たっていることに誰かが気づいて、 あっという間に経済評論家としての評価が高まったって感じだと思います。
昔読んだ「愛と幻想のファシズム」って本は、 リアリティというよりはハードボイルドな面白さが勝っていて、 「コインロッカーベイビーズ」とか 「音楽の海岸」と同じノリで読みましたが、 今読んでいる「半島を出よ」はかなりリアルに感じます。
北朝鮮の特殊部隊9人が「北朝鮮からの反乱軍」として プロ野球開幕戦が行われている福岡ドームを占拠します。
北朝鮮の兵ではない、との発表で日本が北を攻撃するのはNG。 国内で大規模な人質が絡んだ事件、国内での戦闘を体験した事のない 日本の警察、自衛隊は、ドームを埋める数万人を犠牲にして、 「北朝鮮からの反乱軍」9人を殺すという、他の国なら当然の方法を とることができず、あっさりと福岡を封鎖して様子を見る方法を選びます。
数万人VS9人(完全武装)という奇妙な力関係の中で、 ひたすらおとなしく言う事を聞く観客の様子。
テロ対策本部の中で、脂汗を浮かせながら何も対策を打ち出せず、 とりあえず現状を見守る事しか出来ない政治家たち。
「北朝鮮からの反乱軍」が、 我々反乱軍は、最終的には福岡市民の方々と独立国を創設する、と 宣言してみても、特にリアクションをおこさない日本人の様子。
それぞれが実にリアルです。 なぜなら、日本が空前の不況に陥っていて、 アメリカはさっさと日本から手を引いていて、 無茶苦茶に景気が悪くなって、 自殺者が年間6万人を超えて、 自民党が分裂して、 強硬派の民主党議員と一緒に新党を立ち上げて、 そこから新党が中心の政府が出来てっていう状況が、 株価、円とドルとユーロと中国元の動きも含めて 実に鮮やかに描いてあるから。
その舞台の上でこそ、少しデフォルメされているに違いない、 日本人の暴力に対する対応が真実味を帯びてくる。
さて、下巻でどういう展開が待っているか。
ご報告は後日。 |
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