夕刻、いつもの公園に足を向けると、
そこにはもう夏虫の声がありました。
行き交う人は短パン・Tシャツ姿。
外国人が多くいる麻布では、冬でもまぁ見かけるけれどね。
トワイライトのタイムゾーンに見上げる空に、
艶やかな東京タワーのオレンジ。
東京タワーの美しさは何かと言われたら、
僕はその突然性と背景だと答えます。
モデルとなったパリのエッフェル塔は、
それ自体を中心に町が設計されているように見えます。
実際に行ったことはないけれど、
てっぺんから眺望すれば、真っすぐな道が四方に伸びる。
きっとそれはランドマークとして正しい。
けれど東京タワーは違いますね。
あんなに高い建物なのに、無計画に建物が立ち続けているから、
ある場所からは大きく見えるのに、10m歩くと全く見えない。
だから、いつも東京タワーは突然視界に飛び込みます。
それは美しい驚きで、鮮度が落ちない。
もう一つは決して黒にはならない東京の空を背景に持つ事。
きっとこの街の夜の色は、住んでいる人が決めているんです。
夢とか挫折とか、吐息とかため息とか。
アルコールとタバコの香りとか、排気ガスとか。
携帯電話やパソコンの灯りとか。
大好きな場所を失った涙とか。
それでも約束は守ると決めた視線とか。
その全部が舞い上がって、空を染めるんですね。
それは甘く、にぶく沈むパープルの背景。
東京タワーを一番きれいに見せる都会の空。
ただ、どれだけロマンチックな気持ちで、それを見上げても、
絶対同じように何百人かが同じものを見つめています。
ちょっと興ざめだけれど、微笑ましい想像。
つまりは、この東京で僕らは一人ではないという事。
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