ノンフィクションというジャンルに限ってなら間違いなく、
ジャンルの区切りを取り払っても、おそらく生涯の一冊。
先天的な病を抱えた少年。
彼は長くはない人生の炎を必死に燃やし続け、
燃やし尽くそうというタイプの精神を持っているわけではありません。
内気で、少女漫画を読むことが好きで。
そして、ただそこに天性の将棋の才があった。
いつ消えるかわからない命を実感するために、
真っ暗な小さな部屋でキッチンの蛇口を少しだけひねる。
そこから落ちる水滴の音を聞くことで、今自分が生きていることを知る。
白く雪が降る公園で、言葉を交わすことなく、
四六時中むくんだままの聖の頬に手のひらをあてる師。
そこにある小さな温もりを、命だけを頼りに、
2人はもう1日だけ将棋をしてみよう、と思う。
その先に、生まれた、空気を切り裂くような音を立てて
敵陣に攻め入る奇跡のような一手。
生きている自体が奇跡であるこの少年は、
果てしなく先にある、天才たちのその頂点に立つ男、
名人との勝負に辿り着けるのか。
僕は将棋は一切わかりません。
ただ、それでもなお、手に取った10年以上前から
この一冊を忘れたことはありません。
まぎれもなく、生涯の一冊。
どうかどうか、読んでみてください。
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