もうすぐ土方歳三の物語が終わろうとしています。
剣にたぎる炎は、北の地で消え行こうとしています。
「燃えよ剣」の中で、この男の物語の中で、
ずっと吉村貫一郎の名を探し続けていました。
浅田次郎の歴史小説『壬生義士伝』の主人公の名前を。
実にその名前が記されていたのは、
新撰組の志士たちの名前が表になっていた、ただ一カ所。
そこにはただ「監察 吉村貫一郎」とありました。
つまり、司馬遼太郎さんがその程度にしか扱わなかった男を、
浅田次郎さんは上下巻1000ページにも渡って描いて、
僕や僕にこの本を薦めてくれた先輩に何度も涙を流させたことになります。
長い長い絵巻物のような歴史というくくり。
そこには実は深海のような深みがある。
ノンフィクション作家沢木耕太郎さんは、ある本の中で、
一人の歴史作家を『歴史からの救済者』と評しています。
次の時代にどんな影響を与えたかを尺度にすれば、
とるに足らないかもしれないけれど、その歴史の転換期のそれぞれにいた、
誰の胸にも響くような生をまっとうした男と女。
彼らは作家たちに描かれることで、
数百年の時を経て歴史から救済されるのかもしれませんね。
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