少し眠そうな声で友人は言ったのです。
確かに「そこに立ってた」と。
友人と飲みに出かけた夜のこと。
12月に入っていたこともあって、
紹興酒のデカンタの半分が空いた頃には、
話はお互いの1年と、来年の見通しに移っていきました。
友人は今担当している航空会社の激変について触れ、
こちらは近々手に入る車のおかげでひろがりそうなスタイリストの仕事を。
これだけ厳しい今の時勢の中、それなりの忙しさで過ごせているのは幸せだと、
そんな風に1つの話が途切れたとき、「最近は書いているの?」と質問が口から出てきました。
ずっと続けているブログが近頃全く更新されないこと、
いつか聞いた小説家になりたいと聞いたことがあったこと。
それが少しだけ気になっていて、その気持ちがアルコールの混じった声にのりました。
すると、友人はグラスに残った紹興酒をあけて、
やっぱり紹興酒に氷は入れない方がいいと言い、
こう続けたのです。
小説はそれなりに。それと小説みたいな話が1つあるよ、と。
干潟ってわかる?
うん、ヒガタ。
ムツゴロウが住んでる有明海みたいな、スゴい浅瀬っていうのかな?あれ。
浅い海の潮がひくと、海の底が海面より上に出てくるところ。
そうそう、潮干狩りとかできる場所がそうかも。
あれが羽田に向かうモノレールに乗って、
昭和島を過ぎたくらいに窓から見えるのよ。
たぶん午前中に潮がひくんだろうね。
朝だと太陽の光に水面がキラキラしてさ、その上を飛行機が飛んでいくんだよ。
小さな干潟に鳥がたくさん休んでる。
悪くない景色でしょ。
夕方は夕方でさ、あの辺りは高い建物が全然建っていないから、
空がしっかり赤くてさ。
俺の仕事って、ずっとパソコンと向かい合ってするから、
開放感のある景色って毎日見ててもけっこう気持ちよくてさ。
居眠りしてない時はだいたい窓の外を見てるのね。
今日は風が強いから、雲がすごい渦を巻いてて、
ちょっと怖いけど、きれいでね。
けっこういい気分でボーっとしててね。
でさ、モノレールが昭和島に近づいて、
いつもの癖でいつもの場所に目を向けたわけ。
そしたらさ、立ってたんだよ。
うん、もちろん海だよ。
だからさ海にさ、ちょうど朝だと干潟がある場所に、
腰から下を海に沈めて、立ってたんだよ。
両手を広げて、そこに小さな海鳥がヒラヒラと周りを飛んでいて。
夕陽の逆行になった真っ黒いシルエットになっててさ。
海に男が立ってたんだ。
→→→→ 続く
今年もたくさんの人に、たくさんお世話になりました。
来年もよろしくお願いします。
こんな一年の終わり方もいいかなって思いまして。
続きは来年。
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