たぶん、本末転倒である物事が、
いかに虚しいかを、その時に知ったのだと思います。
キンモクセイの香りをトイレの芳香剤の匂いだと感じた僕、
魚がもともと「魚の切り身」の形であると思っている子供、
冷房の効きすぎた部屋で上着を着る人。
それぞれがいびつな感覚です。
秋の始まり、風が止んだ一瞬に、鼻孔をかすめるキンモクセイの香り、
海から引き上げられた時、日の光に鱗をきらめさせる魚の美しさ、
夕暮れの終わり、ふいに風の涼やかさを感じる暑い夏。
つまりはものごとの本当の姿を知るという事。
それを見失うと、僕らは少し歪んでしまうという事。
日曜洋画劇場の「サヨナラ、サヨナラ」で有名な
映画評論家・淀川長治さんは、ある日自分の弟子をつれて、
ある高級ステーキ店へ行きました。
食事を終えた後、淀川さんは弟子に言います。
「よく覚えておきなさい。
君が映画評論家として生きていくために、何より大切な事は、
最高と最低を知る事です。
100点と0点、その2つの基準を持つ事ができれば、
君はあらゆる映画に点数をつける事ができるようになります。
自分の100点と0点を一生懸命に探しなさい。
ちなみに、このお店のステーキは世界で一番美味しいステーキです。
つまり100点のステーキだね。
ちなみに0点はNHKの食堂のステーキです。こちらは自分でお食べなさい。
あのゴムタイヤみたいなステーキを食べれば、君は世界中のステーキに
点数をつけられるようになります。」
エピソードを読んだのは、20歳前くらいだったと思うけれど、
妙に納得しました。
今も仲良くさせてもらっている古着関係の人たちがなぜかっこうよく見えるか、
それを考えていた時でしたから。
あの人たちは、今ある服の源流をさかのぼった姿を、
形に、素材に、ディテールに、きちんと意味があった服の本当の姿を
知っている人たちだから格好よく見えたんです。
だから、できるだけ身の回りにある物事の本物の姿について考えたいな、
と思っています。
これはとても困難な事だけれど。
少し、長くなりました。
最後にキンモクセイの香りと、両親に感謝。
最近のコメント